【映画】マ・レイニーのブラックボトム

アカデミー賞チャドウィック・ボーズマンが主演男優賞を獲れなかったことに触れたので、この作品を見ないわけにはいかないだろう。ヴィオラ・デイヴィス演じる主人公マ・レイニーの迫力はすさまじく、役作りも相当なものだったのだろうと思う。しかし、大腸がん治療の合間を縫っての撮影だったことを考えると、この陽気でエネルギッシュな演技の意味にあらためて感動せざるを得ない。

チャドウィックといえば「ブラックパンサー」での演技が評価されていたが、あの作品ではかなり抑えた演技だった。ここまでブルースの要素とエンタメ性を前面に押し出した作品でキャラクターを演じ切った実力を、今後見ることができないのはとても残念だ。

作中でチャドウィック演じるコルネット奏者レビィが、死について語る部分がある。黒人として生まれ、成長する過程を語っている部分はBlack Lives Matterの文脈で受け取れるが、死に関する部分はおそらくチャドウィックの思いが籠められていたのではないだろうか。開かない扉を打ち破って飛び出した先に何があったか。それらを一連のメッセージとして捉えることで彼の演技と本作の意味が見えてくるだろう。