今年のアカデミー賞授賞式で最も印象に残ったのは、主演男優賞を獲ったラミ・マレックのスピーチだった。エジプト移民だった自らの半生をボヘミアン、つまり放浪の民と重ね合わせ、クイーンをはじめ今回の栄誉に道をつけた人たちに感謝を述べたのは感動的だった。映画のレビューでも書いたが、「ボヘミアン・ラプソディ」は放浪者の狂詩曲であって、同名の曲をめぐるエピソードでもクイーンの伝記でもないのだ。
ただ、ラミが「エジプト移民」に触れたところで客席から拍手が沸き起こったことには、若干の違和感を覚えた。グラミーもそうだったが、ダイバーシティを意識しすぎたあまり、本来授賞すべきノミニーに賞が行かなくなってしまった懸念がある。ラミのスピーチも、そこで拍手が来ることには本人もちょっと驚いたようだったし、拍手すること自体が差別的ではないかという気もする。
めずらしく授賞式前に「ボヘミアン・ラプソディ」と「アリー スター誕生」を劇場で鑑賞していただけに、この2作品への感情移入もあった。レディー・ガガのスピーチもメッセージにあふれていて素晴らしかったが、それ以上にブラッドリー・クーパーとのデュエットで聴かせてくれた「シャロウ」に感動した。
もうひとり、主演女優賞に輝いたオリヴィア・コールマンが、思わず笑ってしまったところも印象に残ったが、あれが素なのか演技していたのか、真相を知りたいところだ。我が家では「ナイト・マネジャー」のアンジェラ・バー役だったことから、「バーさん」と呼んでいる彼女には、妙な親近感を感じている。