【ツナグ】映画と原作の対比

JALの機内で映画を見た勢いで、辻村深月の原作小説も読んでみました。先日の映画の記事にコメントをいただいたので、原作のエピソードがひとつ抜けていることは認識していたのですが、そのことはあまり気になりませんでした。原作はそれぞれの章ごとに主人公が代わり、主人公の視点で物語が語られるのに対し、映画はすべて松坂桃李演じる歩美の視点。この点は、映画の出来に大きな影響があったように思います。原作で「伏線」になっている部分を同時並行で描いてしまったため、深みに欠けるのです。

そして映画版で決定的に異なるのは、それぞれのエピソードの描き方に「毒」がないこと。映画はハッピーエンドを描くことに振れ過ぎていて、原作小説に滲むエゴイズムが描き切れていないのです。そのエゴイズムの潔さが、この作品の魅力なのに… 友人は原作の魅力を「ハートウォーミングなハッピーエンドのお話じゃなく、かといって読後感が悪くないところ」と評していたのですが、まさに僕の視点と同じですね。

歩美の父母の死を描く部分も、映画では具体的なだけに見る側の想像力を掻き立てません。結局、この原作を映画化することには無理があったということなのでしょう。やはり僕にとっては、この作品は自分のペースで消化したいし、頭の中で自分の世界と重ね合せながら解釈したい。だからこそ、小説で読むほうがすっきりするのです。

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