【辻村深月】盲目的な恋と友情

辻村深月の作品には当たり外れがあるように思っています。新刊の「盲目的な恋と友情」は、学生オケや就職活動というまさに僕のホームグラウンドを題材としている部分が大きいので、どうしても厳しい目で見てしまいがちでした。例えば女性のコンサートマスターコンサートミストレスの略称である「コンミス」と呼ぶことを知らなかったのか、最近の傾向で女性でもコンマスと呼ぶことを知っていたのかが気になりました。

ただ、オケ部員の日常や就活の動向では取材の甘さを感じるところは多く、やや物足りない体裁。前半を読む限り主人公のキャラづけも弱いので、「本作は外れ」という印象になっていたのです。しかし、後半で一気にそれは覆されます。前半の「恋」のアンダンテから後半の「友情」はプレストくらいまでテンポが上がり、強烈なエゴイズムの世界に引きずり込まれてしまいました。

あくまで個人的な印象ですが、本作は湊かなえへの挑戦状に思えます。湊が得意な、複数の人物による視点からの展開は「他人の見方は違う」という程度ですが、本作に描かれる世界観は、エゴイズムを貫いて世界を「自分にとっての意味」で組み立て直してしまうのです。すべては自分にとっての価値が判断基準だということは、あながち間違いではないのでしょう。

「第2楽章」の転調が急激なので、一気に読まないとおもしろくなさそうですよ。

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