【しあわせの隠れ場所】キリスト教の反撃

この作品で昨年度のアカデミー賞主演女優賞サンドラ・ブロックが獲得しましたが、光っていたのはサンドラだけではなく、「ビッグ・マイク」を演じたクイントン・アーロンも素晴らしく、そして子役のリリー・コリンズとジェイ・ヘッドの見せてくれた屈託のない表情も記憶に残ります。設定や展開は、先日の記事に書いた「プレシャス」と重なる部分も多いですが、安心して見られる完成度の高さは傑出していました。

一方、この作品で一番不満なのは、「しあわせの隠れ場所」という邦題です。原題は「The Blind Side」なのでかなりの意訳になっているし、「隠れ場所」という言葉は日本語にあるとは言い難い上にこなれていないのです。原題は、ビッグ・マイクが持って生まれた「保護本能」に掛けて、「(敵から)守るべき急所」というような意味。その意味合いをまったく表さない邦題は、犯罪モノです。

僕がこの作品を見ていて一番しっくりこなかったのが、「なぜサンドラ演じるリー・アンは、マイクを車に乗せて家に招いたのか」ということ。潔癖なほどにリスク回避を求める現代日本の価値観からは、まったく理解できません。作品を追ってゆくと、リー・アンを突き動かしているのはキリスト教的な倫理観であることがわかります。そしてそれは、「セックス・アンド・ザ・シティ」や「デスパレートな妻たち」で集合しては無価値な会話を続ける女性たちに対する、宗教観からの強烈なアンチテーゼなのではないかとすら思えるのです。

http://wwws.warnerbros.co.jp/theblindside/