【秦建日子】明日、アリゼの浜辺で

小説家で脚本家、そして劇団も主宰している秦建日子(はたたけひこ)の新作は、連作短編の「明日、アリゼの浜辺で」です。「ニューカレドニア」が最初はキーワードのように使われ、それが実際に折り重なって紡がれてゆく、そんな連作ストーリー。それぞれの作品として余韻を味わってもいいし、偶然によって接点が作られる連作としても楽しめます。

ニューカレドニアは得体の知れない、だけど何となく素敵なことがありそうな楽園として描かれます。それでもその楽園は何かの答えではなく、通過点にすぎない。本当のハッピーエンドに向けて自分をもう一度組み替えるために、登場人物たちはニューカレドニアを意識するのです。宮部みゆき湊かなえも多用する「複数のプロットが収斂していく」展開ですが、それぞれの短編の続きに思いをめぐらせることができる内容だけに、もっと想像を読者に委ねてもよかったように思いました。

ニューカレドニアといえば森村桂の「天国にいちばん近い島」ですが、その中でも、そして本作でも「ニューカレドニアは赤土に覆われた島」として描かれます。しかし、僕が実際に訪れた印象では、この島は豊かな緑に覆われた島なのです。季節によるものなのか、ちょっと気になるところです。

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