オーランドへの出張に向かう成田空港で、たまたま見つけた文庫がこの「楽園のカンヴァス」でした。アンリ・ルソーの描いた「夢」を巡るミステリですが、美術史をしっかり学んだ著者だからこそ書ける渾身の一作です。ピカソも重要な役回りを果たし、エル・グレコやアングル、ロートレクらの作品も彩を添えていました。
著者の原田マハは、美術館や商社勤務を経て森美術館設立準備室に在籍しながら「MoMA」ことニューヨーク近代美術館に派遣されたキュレーターでもある小説家なのです。
アートファンとしては、美術ネタだけでもう読み応え十分。ただ、本編を挟んでいるプロローグとエピローグともいえる部分は、ちょっと中途半端で冗長な印象があります。主人公のティム・ブラウンと早川織江がバーゼルで遭遇する謎めいたセッションだけの方が良かったのではないでしょうか。
大原美術館を舞台にして岡山弁の会話を聞かされるより、欧米の空間を舞台にした方がこの作品の世界観には合っていたように思います。アンリ・ルソーは本業が税関吏で、ナイーブアート(素朴派)に括られる画家であることへのオマージュだとは思いますが…
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