【小説】幸福な結末・辻仁成

この作品は小説ではあるけれど、詩のようなフレーズが随所に織り込まれていて、言葉の持つ力をあらためて知らされたような思いです。角膜移植を受けたベルギー人の女性が見るようになった幻影を追って、東京を訪れます。そこで出会う日本人の写真家との関係は、かつて角膜の持ち主だったフランス人女性の存在によって、微妙に捻じ曲げられていきます。結構どろどろした人間関係ながら、語る言葉が純粋なので、一歩引いて世界を見ているよう。行動の裏にある心理を描く作品が好きな人には、間違いなく読み応えがあるでしょう。

(ここからは、ちょっとネタバレ!)そして、最後の結末は語られないまま、読者に委ねられます。この手法は、僕がホームページで公開している小説でも多用しているもの。僕は結論を押し付けてしまうのではなく、読む人の過去の経験や現在の心境に重ね合わせて次のシーンを思い描いてもらう意図があります。辻仁成は、どういう意図だったのか、聞いてみたいところです。

でも、この写真家が辻仁成のキャラクターだとしたら、関係の希薄な恋を重ねて生きていくのだろうなと思いました。自分の心とは違う動きなので、新鮮に感じた部分もありましたけど・・・