【映画】バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

「バードマン」はいろいろな作品や映画関係者へのオマージュが織り込まれているようですが、それらを理解しなくても十二分に素晴らしさが伝わってくる映画です。劇中劇のような形で、レイモンド・カーヴァーの「What We Talt about When We Talk about Love(愛について語るときに、我々の語ること)」が登場します。村上春樹が翻訳したこともあって興味を持った僕は、英語版のペーパーバックで読んだことがあります。この「バードマン」という映画作品は、アカデミー賞授賞式を見て以来気になっていましたが、映画館で見てみようと思ったのはカーヴァーの影響です。

映画から受け取るメッセージは人それぞれでよいと思っていますが、僕が受け取ったメッセージは「形になってしまったことではなく、まだアウトプットされていないことが人のモチベーションになるが、他人はそんなことにそれほど興味はない」ということです。もっと縮めて言えば「(芸術も含めて)自分のアウトプットは自分が評価すればよい」ということになります。他人の批評なんて気にせずに、自分を表現すればよい。死をも扱う内容ですが、イニャリトゥ監督が籠めていたのは、温かくてポジティブな応援チャントだったように思うのです。

これは映画という体裁ではありますが、中味はとても演劇的。秀逸なカメラワークやバランスを欠くくらいのボリュームで流れる音楽、物理的制約を無視して軽快なテンポで綴られる編集もすべて演劇の要素でした。その意味ではフランス映画や日本映画に通じるものがあり、僕は伊丹十三の「お葬式」を思い出しました。ただ、閉じられた空間でないだけにスケール感があり、つまらない「笑い」が混入していない点で差別化されているように感じました。

地味な役柄ながら、エマ・ストーンナオミ・ワッツの女優陣が華を添えていなければ、粗野で頑固な人物にフォーカスを当てたフランス映画のようになったことでしょう。

とにかく120分間、無駄な部分がありません。常にストーリーや見せ方がどうなるのかと期待させ続けてくれる、素晴らしい作品です。

http://www.foxmovies-jp.com/birdman/