【ムンク展】デッサンより色彩を

上野の国立西洋美術館で「ムンク展」が開催されています。ムンクといえば「叫び」で有名なノルウェーの画家ですが、それ以外の作品についてはあまり一般的ではなく、僕もほとんど知識がありませんでした。この展覧会ではムンクの「装飾性」に焦点を当て、個々の作品としてではなく、シリーズとしてのつながりを意識して見ることを提唱しています。ムンク自身、その関連性のある作品群を「フリーズ」と称しているそうです。

フリーズという単語で思い出すのは、ほぼ同時期にウィーンで活躍したクリムトが遺した「ベートーヴェン・フリーズ」という作品。僕はこれをウィーンのセセッションという美術館で鑑賞しましたが、一部屋まるまる壁画調の作品が描かれていて、その世界観に浸れるのです。その意味では、ムンクの作品はある種の「屏風画」のようなもので、ある建築を装飾するものとして描かれたのです。そう考えると、彼の作品に見られる茶や紫を基調とする色彩の統一感には納得させられます。クリムトにも通じる世紀末の不安感が、紫や茶というエキセントリックともいえる色を好んだのかもしれません。

来日していない「叫び」も含め、ムンクの作品では人物の表情がぼんやりとまるで心霊写真のように描かれていることが多いですね。今回の展示を見て感じたのは、「ムンクはデッサンには興味がなく、それよりも色彩の統一性を重んじたのだ」ということ。どの作品もあまり表情のディテールを描いていないのですが、それは決してデッサンが下手ということではないのです。彼の絵画が「装飾性」を重視しているということであれば、この解釈にも妥当性があるように思いました。このような視点で鑑賞すると、いろいろと見えなかったものが見えてくるような気がします。

http://www.nmwa.go.jp/jp/exhibition/index.html#mainClm