【ヴェンダース監督】アメリカ、家族のいる風景

ヴィム・ヴェンダース監督が2005年に製作したこの映画は、僕の好きな「パリ、テキサス」同様にアメリカ西部のロードムービー的な作品です。「パリ~」では男女の関係を描いていて、ハリー・ディーン・スタントンの寡黙な演技とナスターシャ・キンスキー長回しが印象的な佳作ですが、この作品「アメリカ、家族のいる風景」は親子をめぐるストーリーです。

邦題には「家族」という単語が明確に含まれていますが、原題は"Don't Come Knocking"なので「訪ねて来るな」という意味合いです。家族を扱っているのは間違いのないところだと思いますが、もっと根本的なテーマは「物(人)には、その時々にふさわしい居場所がある」ということではないでしょうか。久しぶりに母親に会いに行ったつもりが、そこで自分の息子の存在を知り、探しはじめる映画俳優の主人公。彼との出会いを拒絶する元恋人、そしてその息子。さらには主人公を追う、別の女性。主人公を撮影に連れ戻そうとするエージェント。

最後には主人公は、何事もなかったかのように映画の撮影に戻っていきますが、息子たちは新たな道に向けてハンドルを切ります。「失った時は戻せない」というよりも、「物事にはふさわしいタイミングがある」ということなのだと思います。それを象徴していたのは、ラストに近い場面で主人公を探し当てたエージェントが彼を連れ戻す途中に、車の中でクロスワードパズルを完成させるシーン。あるべき場所にあるべき文字がはまった、その瞬間です。

音楽はTボーン・バーネットですが、なんとなくライ・クーダーの二番煎じに感じられてしまうのは、惜しいところです。脚本も手がけたサム・シェパードの静かではあるが感情の起伏を巧みに演じ分けたあたりや、ユマ・サーマンを思わせる容姿のサラ・ポーリーの表情も、この映画の味わいを深めています。ヴェンダース作品には「ベルリン・天使の詩」のような難解なものもありますが、この作品はわかりやすいし、展開に引き込まれる見事な構成でお勧めです。