【映画】Mank/ マンク

この作品は、「ゴーン・ガール」や「ハウス・オブ・カード」のデイヴィッド・フィンチャーが父親であるジャックの脚本を映画化したもの。名作「市民ケーン」をオーソン・ウェルズと共同執筆したことになっているハーマン・マンキーウィッツの伝記のような展開だが、フラッシュバックを織り交ぜていかにも往年の名画のような作りになっている。モノクロに仕立てている上に、フィルム映画へのオマージュのような技法もあり、昔ながらの映画の作法に則った映画作品なのだが、これを配信と同時公開という扱いにしているところに時代の流れを感じる。

ハーマンが砂漠に缶詰めにされて書き上げた脚本を、当初は契約で放棄していたクレジット表記にこだわって「共同執筆」という体裁を取る。しかし、エンドロールではハーマンがオスカーを持ちながらの受賞コメントでオーソン・ウェルズを皮肉るあたりが面白い。当時のハリウッドの状況はこんな感じだったのだろうし、それはまた日本のエンタメ界でも現在まで続いている悪弊のようにも思える。

「エミリー、パリへ行く」で主演しているリリー・コリンズが主人公ハーマンのお世話係を演じているが、「エミリー~」でコミカルな役を自然体でこなしていたように見えた彼女が、シリアスな役を巧みに演じている様子を目の当たりにしたことで、リリーの演技力の素晴らしさにあらためて気づいた。主演のゲイリー・オールドマンハリーポッターシリーズでシリウス・ブラックを演じた俳優だが、フラッシュバックのシーンと現実のシーンでは肉付きや生気など見た目の印象がまったく異なったが、これはメイクだけでなく役作りへのこだわりと相俟っての成果だろう。ストーリーが面白いわけではないのだが、映画らしさを堪能できて楽しめる作品だ。