史実を起点にしながらも、アポロ計画をフィクションの世界に引きずり込む大胆なストーリーで現実感の強い世界観を構築する。考証に基づいているという意味では、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」と同様だが、科学面に限らず政治や企業経営、そして個人の選択まで「起こり得たけれど、起きなかった歴史」が展開する点が本作の特徴であり、それが視聴者を引き込むポイントだと感じる。
月の基地ジェームズタウンから帰還する目処が立たなくなった宇宙飛行士のゴードーがノイローゼになってしまう場面は、いろいろな意味で考えさせられた。猜疑心の強そうなモリーが、切羽詰まって怪しげな手術に手を出して失敗するのもリアリティを感じるが、北朝鮮や同性愛の問題についても、ここでこうつながるかというくらい巧妙に問題が提起され、その伏線も回収されている。
ゴードー・クーパーやディーク・スレイトンといった「マーキュリー7」の実在のメンバーが活躍するあたりがロマンを掻き立てる。また、女性飛行士を養成した「マーキュリー13」の要素も垣間見える。その意味ではマルチバースのような話とも言えるのだろう。大韓航空機撃墜事件も扱われる一方でジョン・レノンが長く生きていたり、ソ連が崩壊せずに存在しているあたりも、まさにマルチバースだ。アル・ゴアがブッシュとの争いに勝利して大統領になっていることはシニカルとも言える。
宇宙飛行士が大きなリスクを背負ってまさに行動しようとするときに、レーガンとアンドロポフが電話で国の利益を賭けて交渉する。そして、月面で米ソが敵対し対峙することになるが "for all minkind" というお題目と自国の利益の狭間での心理描写が興味深い。現実に起きたベネズエラ大統領拘束の際のデルタフォース隊員にも、このような葛藤があったのかもしれない。
作品の中で最初に月面に到達したソ連のレオーノフは、「マルクス・レーニン主義的な生き方のために」と語った。タイトルの "for all mankind" はアポロ11号が実際に月に残した銘板の一節だが、「すべての人類のために」はレオーノフの言葉に対する冷戦時代の米国とソ連のイデオロギーの相違を米国視点で表現したものだ。
任務を成功させて時の人となったトレイシーはテレビのショー番組で派手に取り上げられるようになり、すっかり人が変わってしまう。その前夫ゴードーはスタンダップコメディのような形で昔の栄光を語る生活だが、家族が遠ざかってしまったことで幸せとは程遠い。そしてかつての英雄エドワード・ボールドウィンはシーズンが進んで年齢を重ねるにつれて、「老害」を絵に描いたような存在になってゆく。
シーズン4の終わり方があまりに救いがなさすぎて、この先の更新を捨てていたのではないかとすら思えるが、シーズン5は今年配信の予定になっている。2010年頃が扱われるはずで、小惑星に手を広げた宇宙開発は新たな局面を迎えるのだろう。
「FBI Most Wanted」でニーナを演じるシャンテル・ヴァンサンテンが厳格な母親かた冷徹な経営者になる女性カレンを演じるのはまさにハマり役で、「LOST」のペニー役ソーニャ・ヴァルゲルの一匹狼的なキャラクターもキャスティングの妙だった。シーズンごとに約10年が経過するので、メイクや特殊効果を使って年齢を演出する技術も見どころになっている。