【映画】アス

ジョーダン・ピール監督作品を立て続けに見ている。「ゲットアウト」より複雑な設定は、「NOPE」に向けてさらに要素が絡み合う中間点にあるように感じた。

冒頭に出てくるウサギの映像が、見方によってウサギにもアヒルにも見えるジャストロー錯視の絵に見えたことで、物事の二面性が描かれるのではないかという予想ができた。主人公一家は襲撃を受けているとはいえ、自分たちを守るために反撃に出ている姿だけを見れば、どちらが善でどちらが悪なのかは判別できない。

民族同士の紛争は、その多くが過去の文脈を経て現在の行為に至っているのであって、パレスチナ問題などは、その最たるものだ。ガザ地区でのハマスの行為に至る背景には、シオニズムからのイスラエル建国、さらに遡れば十字軍や旧約聖書にある出エジプトなどがある。現在なされている目の前の行為だけで物事を判断することが正しいとは、とても言い切れない。

ただ、この作品の中身やジョーダン・ピールの傾向を踏まえて考えれば、これは白人と黒人という二項対立を描いていると見るのが正解なのだろう。サンフランシスコとニューヨークを700万人が手をつないでつなげるプロジェクトの映像で終わるのは、そのような行為に実体があるのかという問い掛けだったように思う。

エリザベス・モスとルピタ・ニョンゴの演技が見どころだが、「ハンドメイズ・テイル」を見慣れているせいか、モスはダークな演技の方が彼女らしい印象を受けてしまった。陽気に会話するよりも、血しぶきを上げていた方が似合っている。