【映画】AIR/エア

ナイキのシューズ「エア・ジョーダン」が誕生するまでのストーリー、言い換えるなら、ナイキがマイケル・ジョーダンと契約するまでのストーリーをベン・アフレックマット・デイモンのコンビで作り上げた作品。展開は、ありがちなサクセスストーリーではあるが、演技にフォーカスを当ててじっくりと見せる手法に引き込まれる。マイケルの母デロリスを演じるヴィオラ・デイヴィスとナイキの担当者ソニーマット・デイモン。この二人の演技だけでも、十分に見応えがある。

この時代には携帯電話は普及しておらず、固定電話やレンタカーに設置された電話が交渉の場面で重要なツールとなる。デロリスとソニーが電話でハードなネゴシエーションをする場面を見ると、対面で話すよりも音声としての言葉に集中できる分だけ「思い」を伝えられるような気がした。僕自身、実際にビジネスの場面では、やはり対面を優先しているのだが、場面によってはテキストで伝えることも必要だ。テキストはいつ読んでも不変だが、音声は録画や録音を再生しない限り印象と思い込みに左右される。複雑な真意を伝えるなら、テキストの方がよい。しかし、対面には対面の、電話には電話の良さがあって、局面ごとに使い分ける必然性は否定できないだろう。

112分という最近の映画にしてはコンパクトな作りで、長さとしてはちょうどよい。ただ、削り過ぎている部分があることもまた事実だ。クリス・タッカーが演じるハワードの人物像や位置づけをもう少し描いておいてくれたら、対面交渉の場面での流れが整理できただろう。またCEOのフィルがシューズを履いて走って納得したり、最後はソニーの判断を信じるようになったりという部分も、人柄をもう少し描いてくれたら「取って付けた感」が減らせたようにも思う。ただ、作品の満足度は間違いなく高いので、余計なものをつけたら台無しになるのかもしれない。