【映画】エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

今年のアカデミー賞で主要な賞に次々と輝いた、通称「エブエブ」がようやくNetflixで配信スタート。本作のテーマと思われるマルチバースは、マーベルでも「やり直すこと」を安易なほどにポジティブな方向で描かれてきたが、現状を否定したところで、やり直した道が今よりマシである保証はどこにもない。自分が自分である以上、同じ選択をする可能性も高いし、意識的に違う道を選ぶとすれば、それが本当にハッピーな選択だとは言えないはずなのだ。

「エブエブ」の前半は、マルチバースを茶化す形で進行する。中国系の家族が主役ということで、「ダイバーシティ」や「家族」に目が向きがちだが、製作陣が描きたかったポイントは、そこではなかったのではないか。現状を否定して破壊しようとすることは、いわゆる「カタストロフィ」だ。これはマルチバースとも通じる考え方なのだが、最終的には現状否定から変化を求めるのではなく、現状を肯定して「自分がこれまで選択してきた道」を信じることの意味に目を向けようとしているのだろう。数多くある未来の選択肢をゼロクリアすることに、どれだけの意味があるかという問い掛けなのだ。

全編を通してコメディ要素が満載の中、演技力で作品価値の崩壊を防いだ俳優たちが評価されるのは必然。特にミシェル・ヨージェイミー・リー・カーティスの迫力ある演技は、本作に欠かせない要素だった。コメディ部分が長すぎるのがネガティブ要素ではあるが、見終わってみれば考えさせられるような充実感がある作品だ。ちなみに、終盤に登場する「ベーグル」のメタファーは、テニス用語として使われる際の「ゼロ」という意味もあるだろうし、多数のトッピングを乗せたものを「エブリシング」と呼ぶこととも掛けているように思う。