【映画】コーダ あいのうた

今年度のアカデミー賞受賞作品というより、フランス映画「エール!」のリメイクという点で気になっていた。「エール!」はいかにもフランス映画らしいエスプリにあふれる作品だっただけに、アメリカを舞台にどう置き換えるのかに興味があった。結論としては、僕にとっては消化不良感が残ってしまった。

聴覚に障害があるという設定を生かすには漁師は悪くなかったし、音声を切って聴覚を遮断した状態での描写も秀逸で、音がなくてもコミュニケーションは可能だし、音楽やパフォーミングアーツも成り立つことをしっかりと示していた。一方、原作の持つコメディ要素はうまく盛り込めていない印象があり、編集面でも「原作を見て展開がわかっている」からこそ補えた部分もあったように思う。説明不足というか、展開が急すぎるのだ。特にマイルズとルビーが親密になっていくあたりは、取って付けた感が拭えなかった。「エール!」あってこその、アカデミー賞作品賞と言えるのではないだろうか。

トロイ・コッツァーの演技は、アカデミー助演男優賞にふさわしかった。下品な漁師でありながら、娘を愛する思いは十分に伝わってきた。しかし、それは同時に他の役者の演技が、ルビーを演じたエミリア・ジョーンズを除けば物足りなさがあったことの裏返しでもある。エミリアにしても伸びしろは感じたものの、もう少しうまく引き出してあげられたのではないかという気もする。