【ドラマ】ブラッドライン

普段通りの生活をしていると、普通に理屈や正義が通じる相手としか触れ合わないので、それが当たり前のように思えて疑問を感じない。もちろん意見や思想が異なることもあるが、それは大同小異の範囲内だ。しかし、世の中には人を騙して何とか利益をかすめ取ろうとする人がいるし、理屈や正義の質が根本的に異なる人もいる。そんな忘れていたことを目の前に提示され、あらためてこの人間社会が恐ろしくなってしまう。このドラマが持つ本質は、そういうことだ。

フロリダのリゾートで暮らす一家は、「家族を守る」というありがちな発想の下についたひとつの嘘をきっかけとして、長い長い時間をかけて崩壊してゆく。当事者たちは自分のせいだとは夢にも思わないし、お互いに責任をなすりつけながら傷が深まってゆく。その責任を引き受け続けてきた次男が、最後の最後に母親に告げる台詞で僕の思いを代弁してくれた。

とにかく台詞にリアリティがあり、心が弱い者が陥りがちな展開になる。三男ケヴィンの言動は見事に設定されていたが、それをナチュラルな感じで演じたノーバート・レオ・バッツも見事だった。そしてカイル・チャンドラーベン・メンデルソーンも味わい深いながら心の闇まで見せる演技で、このドラマで制作陣が狙った要素をすべて出し切っていた。演技という意味では、母親役のシシー・スペイセク抜きには語れない。「自分の価値観に凝り固まった支配的な母親」を表情から仕草まで完璧に表現し、冒頭に書いた恐ろしさをこの作品にもたらしたのは、間違いなく彼女なのだ。

終盤の展開にはかなり無理があり、imdbでの評価も最後の2話は極端に落ちていた。そのことを把握した上で見たのだが、制作陣の意図もわかるし低評価も納得できる。僕にとっては、物足りなさを感じつつも、ここまで広げた話を終えるにはこれしかなかったのかもしれないと思えるエンディングだった。その2話をどう評価するか、そのためだけに本作を見てみても悪くないのではないかとすら思うほどだ。