【映画】RUN/ラン

代理ミュンヒハウゼン症候群の母に支配される娘。しかし、実はその親子関係も真実ではないという非現実的な設定なのだが、作り込まれた設定に違和感が消されている。複数の障害を抱える娘クロエを演じるキーラ・アレンの鬼気迫る演技は凄まじく、こちらも存在感は十分だったサラ・ポールセンの演技が霞んでしまったように思う。他にも登場人物はいるものの、ほぼこの二人の演技に集約されるという演劇空間的な作品だが、表情や台詞、行動などに飛躍はなく、現実味があるところが恐ろしさを生む。

中盤までは「どうオチをつけるのか」に興味の焦点があったが、終わってみれば納得感のある結末。それどころか、この先のストーリーを鑑賞者に委ねたかのような終わり方で、いろいろ想像を巡らせたくなってしまう。ここまでの展開で行けば、この後も即効性のある形ではなくじわじわと苦しめる流れが想起され、勝手にスリラー度が上がってしまうのだ。

2015年に実際に発生した「ディーディー・ブランチャード事件」が類似の事案として下敷きになっているようだが、あれもこれも語るのではなく90分というコンパクトな作品に仕上げたところは製作陣の狙いもあったはず。一気に見て余韻を残し、想像に委ねる。長編とは異なる楽しみ方のできる、そんな映画作品だった。