【映画】エスター ファースト・キル

<ネタバレあり>

 

 

2009年の映画「エスター」の前日譚とのことだが、前作を見ていない上にほとんど予備知識のないまま見ても、特に問題なく楽しめた。物語はエストニアの雪景色から始まる。描写はリリカルだが、そこに秘められたエスターの魔性を予感させるものがあって、空恐ろしさを感じる。一方、米国入国から家族への引き渡しまでの手続きがほとんどないように見えるので、これではこのような事件が起きても不思議ではない。そこに対する警鐘としても、本作を捉えることができる。

エスターが「乗っ取った」人格の母親と兄が抱えていた闇、そしてそれが明かされる経緯が唐突かつ意外性があるもので、ここに本作のキモがある。もともと自分たちがエスターの死を隠蔽していながら、当の本人が帰ってきてしまったことをあのように受け容れていることには違和感があるが、半信半疑から心が決まって一気に話が展開したと考えれば、まあわからなくもない。

その意味で、母親役のジュリア・スタイルズの演技と存在感には見応えがある。主演のイザベル・ファーマンは「実年齢31歳ながら、9歳の少女を偽っている」という設定の下、役者本人の実年齢は現時点で26歳という複雑さを巧みに演じている。ビジュアル的なホラー要素というよりも、母親が実は娘ではないことに気づいていて、しかもその理由が自ら殺害していたからという部分に、芯から湧き上がるような恐ろしさがあって、それこそが本作のホラー要素になっている。ここまでの情報を持って見たとしても、十分にエンタメとしては楽しめるだろう。