【トニー賞】第76回授賞式

今年のトニー賞授賞式はニューヨークのユナイテッドパレスで開催されたが、全米脚本家組合のストライキの影響で台本なしで進行する事態となった。作品としては「キンバリー・アキンボ」が、作品賞を含め最多の受賞だった。いつものように、プロダクションごとにパフォーマンスの一部が披露されたが、僕が興味を持ったのは「&ジュリエット」。ポップスのヒット曲に乗せて華やかに繰り広げられるショーを、ぜひブロードウェイの劇場で見てみたいと感じた。

今年の授賞式で特徴的だったのは、ノンバイナリーの受賞。「お熱いのがお好き」でミュージカル主演男優賞を獲得したJ・ハリソン・ジーと「シャックト」でミュージカル助演男優賞に輝いたアレックス・ニューウェルは、ジェンダーで言えば「Q」。つまり、性自認が男性でも女性でもないという人たちだ。二人揃ってしまうと、狙って受賞させたような印象を受けてしまうのがもったいないが、アカデミー賞なども含め男優と女優というカテゴリーによる区分に一石を投じる結果にもなるだろう。

そしてそれは賞のカテゴリーに留まる話ではなく、映画や演劇の作りをも左右する。主人公の男女が中心になったストーリーで、それぞれに重要なパートが割り振られるという暗黙の了解に近いものが世の中には存在する。それを根底から覆すことにもなりかねないのだ。もちろん、マジョリティの価値観やジェンダー意識が急激に動くとは思えないが、少なくともそのあたりを意識せずに評価される作品を製作することは難しくなるのではないだろうか。