【北京オリンピック】フィギュア女子シングルフリー

失敗するとしたら、それはトゥルソワだと思っていた。4回転で失敗したダメージで転倒を繰り返す。そんな状況にならないと、坂本のメダルは難しいだろうと。そしてトゥルソワが見事にフリーを演じ切り、シェルバコワも安定した「高得点を取れる」演技でまとめる。この時点で坂本花織もチームも、暫定4位を覚悟しただろうし、ワリエワのドーピング問題の決着でメダリストが変わることに期待するしかないと思っていたのではないだろうか。

しかし、ワリエワも人間だった。ジャンプのミスが相次いだことで、プログラムコンポーネンツにも影響が及ぶ。音と動きの同調が失われ、国際映像での見え方以上にポイントを落とす内容になってしまう。ジャッジだって人間だ。「ワリエワが表彰台に上がればメダル授与式を行わない」というあり得ないレギュレーションが待ち構えている中、ここまで失敗すればGOEもプログラムコンポーネンツも、心置きなく思い切り下げることができたはずだ。

坂本は、そんな状況においても、彼女らしい素晴らしい演技だった。すべてのジャンプは大きく、助走も着氷も音楽に乗り、一連の動きとして組み込まれていた。これは4回転も3Aもなかったからこそと言えるし、SP後に世界中にフィギュア関係者が彼女を称えたように、この完成度こそが本来のフィギュアスケートなのだ。ISUは、採点基準を変えるべき。ジャンプ偏重は、この競技の本質を歪めている。スピンやステップの評価には主観が入りやすいが、それを怖がっては採点競技は成り立たない。