【北京オリンピック】フィギュア女子シングルSP

ワリエワのドーピング問題で揺れるフィギュアスケート界。そんな中でロシア・オリンピック委員会3人と同組となり、しかも最終滑走という大きなプレッシャーのあった坂本花織は、トリプルアクセルを跳ばない演技でも高得点を挙げ、3位につけた。彼女らしい流れのあるダブルアクセル、そしてトリプルルッツ+トリプルトーループのコンビネーションはいつもほどの大きさはなかったように見えたが、確実で安定したジャンプだった。難解なブノワ・リショーの振付を見事に演じ、表現力も見せてくれた。

演技を終えた後に涙があふれたのは、それだけ大きなプレッシャーを感じていたのだろう。ロシア3人の間に割って入り、見る者を「絶望」から救い上げてくれた。それだけでも、彼女の演技には素晴らしい価値がある。今の採点基準はジャンプへの比重が大きいし、中継の実況でも「着氷した」ことを必要以上にほめたたえる。しかし、跳んで下りることがフィギュアスケートの神髄なのではない。男子ならジェイソン・ブラウン。それはアダム・リッポンやミーシャ・ジーからの系譜でもある。フィギュアスケートを軽業師の曲芸大会にしない上でも、坂本のような上質な演技は欠かせないはずなのだ。

とはいえ、フリーでの上位進出とメダル獲得は容易ではないだろう。トリプルアクセルに成功した樋口新葉を含め、自分らしい演技で世界観を表現してほしい。見た者が、負け惜しみではなく記憶に残ったと満足して振り返ることができる演技が見られればよい。それはちょうど羽生結弦のように。