【映画】ノマドランド

ロードムービーに括られることが多い作品ではあるが、この作品は「パリ、テキサス」とも「ファンダンゴ」とも「テルマ&ルイーズ」とも似ていない。確かに一箇所に留まらずに漂流する生活を描くという点ではロードムービーなのだが、これはもっとドキュメンタリーのような印象がある。留まらないライフスタイルを選んだ自分をひけらかすのでも、宿命的に受け入れるのでもなく、ただそれがベストチョイスだったからそうしたというだけの等身大の姿を、ありのままに描いた作品だと思うのだ。

その証とも言えるだろうが、リンダ・メイもスワンキーも、そしてボブもカメオ出演というか、自分のままの役で出演するアマチュアといってよいアクターなのだ。演技っぽく見えない演技は、だからこそなのだろう。フランシス・マクドーマンドもごく自然にノマド生活者を演じているが、それは単になりきっていることが自然な姿だったということなのかもしれない。

ロードムービーというと、一風変わったタイプの男性が主人公であることが多いが、本作では女性を主人公に、女性監督のクロエ・ジャオが撮っているところがポイントだ。今の時代に性別を論じるべきではないのかもしれないが、RV生活でのちょっとした生活感、例えば排泄とか入浴といった行為がごく自然にある程度の清潔感を持って描かれたり、職場でもしっかりと同化していたりという部分に独特な世界観を感じた。そういった点を理解した上でないと、ダイバーシティインクルージョンが成り立たないはずなので、まずはその第一歩として本作を味わうのも良いだろう。