【ドキュメンタリー】All In: The Fight for Democracy

プライムビデオで視聴した、米国の選挙不正を扱ったドキュメンタリー「All In: The Fight for Democtacy」は説得力があり、英語も聞きやすくていろいろと参考になった。今般の米国大統領選でドナルド・トランプが「民主党に選挙を盗まれた。最後の一票まで数えろ」と言っているようだが、それはまさにアメリカの歴史なのだと思い知らされる。もともとは人種問題や女性参政権の問題に端を発し、リンドン・ジョンソンが1964年に公民権法を制定してからも投票を妨害する行為や、それをカムフラージュして法制化することによって、特にアフリカン・アメリカンが選挙権の行使を妨げられてきた。

もちろん、このドキュメンタリーが民主党視点で作られていることから割り引いて考えないといけないとは思うが、1965年にアラバマ州のセルマにあるエドマンド・ペタス橋でデモ行進を阻止された「血の日曜日」のエピソードにちなんで、のちに橋を渡ることが儀式化された様子を見るだけでも、米国社会に根差した問題の深さが偲ばれる。歴史的にアメリカ合衆国には選挙妨害や不正がある一定の価値観の下に公然と存在し、その中で戦うことによって権利を勝ち取ってきたこと事実をあらためて気づかせてくれた。

そう考えると、日本は平和だ。勝海舟による江戸城無血開城も、戦後の復興も勝ち取ったというよりは「お上から与えられた」と言ったほうが近い。確かに日本でも自由民権運動や部落解放運動はあったし、その名残りが消え去ったとは言い切れないのだが、米国とはスケールが違うように思う。そんな日本人の価値観では、今回の大統領選の「最後の一票まで数えろ」という観点は、なかなか理解しがたいだろう。