【原田マハ】暗幕のゲルニカ

新潮文庫原田マハの「暗幕のゲルニカ」を読了しました。僕はマドリードのソフィア王妃芸術センターでゲルニカを鑑賞しましたが、展示室に入った瞬間に感じた衝撃を鮮明に覚えています。言葉では表現し尽くせないような、やるせないというか狂おしいまでに絶望を感じる瞬間だったのです。そして、その感覚はおそらく、原田マハの描写にも通じるものがあります。ピカソは単にナチスフランコを非難したのではなく、戦争を起こしてしまう人間の哀しさと愚かさを描いたのでしょう。

この小説は、時空を超えた2人の女性を軸に、ピカソ自身も登場して話が展開します。9・11が扱われていることはあまりにも直截的な印象もありますが、ストーリーに厚みを持たせていることには間違いなく、ゲルニカ空爆とつながってテーマを形作ります。ただ、全体的な分量のバランスが悪く、終盤になってようやくサスペンス・アクションの様相を呈してくるのはいかにも遅すぎます。

また、朝食のトルティージャの焼き上がりや食感を的確に描写する一方、ホテルスタッフとの会話やビジネスミーティングの場面では違和感を覚える台詞回しも散見され、原田の得手不得手が如実に浮かび上がっているように思います。アートへの造形が間違いないことが全体をうまく締めてくれるので、飽きずに最後までテンポよく読み切れました。