マーラー交響曲第6番「悲劇的」

クラシックで好きな作曲家はチャイコフスキーフォーレモーツァルト、それにマーラーだ。マーラーの紡ぎだす音楽は華麗にして退廃的。それは彼の育ったウィーンの環境が生み出したものかもしれない。同時代の画家にして、マーラーと同じファーストネームを持つグスタフ・クリムトの描く絵画もまた、華麗にして退廃的なのである。それはクリムトの「接吻」や「ユディット」を見れば、疑いのない事実であると感じられるはずだ。

そんなマーラーの書いた9つの交響曲(10番は未完)の中で、僕のお勧めは第6番「悲劇的」である。迫り来るストレスのような弦楽の刻みではじまる第1楽章は、まさに悲劇を描写したような迫力だ。しかし、第2主題に入ると、何ともいえない耽美な旋律が悲劇を包み込む。その対比が実に美しいのだ。

マーラー作品はとくかく長いので、全曲聴くには時間と覚悟と体力が必要だ。それらが全部揃わないときは、ぜひこの6番の第1楽章だけでもお試しあれ。クリムトの絵画と合わせて鑑賞すれば、19世紀ウィーンの世紀末的世界を味わうことができるはずだ。

余談だが、クリムトには「ベートーヴェン・フリーズ」という部屋をひとつ壁画のように書き尽くした作品があり、ウィーンの「セセッション(分離派会館)」に所蔵されている。これはおなじみのベートーヴェン交響曲第9番を絵にしたものなのだが、この作品を観るためだけに入館した見学者たちと仲良く作品を味わうのも、貴重な経験だ。