【映画】ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ

この作品はコメディにカテゴライズされてはいるが、哀愁に満ちた展開の中にコミカルな要素を散りばめていて、笑える要素より悲しみを覚える要素の方がはるかに多い。コメディとは本来そんなものだと言ってしまえばそれまでだが、笑わせることが目的なのではなく、笑いによって辛辣なメッセージをほどよく緩和しているといったところだろうか。

主演のポール・ジアマッティの演技が目当てだったが、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフとキャリー・プレストンもよい味を出している。「斜視」という設定は風変わりな教師を表現するために仕掛けだろうが、それをジアマッティが実に巧みに演じた。それと同時に、物事には異なる見え方があって、どちらが正しいかを判断することは難しいが、人生においては非常に重要な分岐点になるということでもある。

主人公ハナムは、オススメ図書としてマルクス・アウレリウスの「自省録」を買い込んでいる。クリスマスにアンガスとメアリーにプレゼントする際に伝えた「私にとっては聖書とコーランとギーターがひとつになったような書物で、しかも神に言及していないのが最高だ」というコメントが気になっていて、読んでみたいと思わされてしまった。ちなみにギーターとは、ヒンズー教聖典だ。

さっそく文庫版を購入して読み始めたところだが、この映画の結末でハナムが自分の得にならない決断を下すことがマルクス・アウレリウスの信条として示されている。この書籍も伏線になっていて、ハナムの生き様を象徴しているということなのだろう。