WOWOWで放送された「モーツァルト」のウィーン版ミュージカルを、オンデマンドの配信で視聴した。20年前に帝国劇場で日本版を見ているはずだが、ほとんど記憶にないので初見のような感覚だったものの、楽曲には聞き覚えがあり懐かしさすら感じられるほどだった。
これはウィーンのアン・デア・ウィーン劇場での公演によるものだが、僕はこの作品と同じミヒャエル・クンツェ作詞、シルヴェスター・リーヴァイ作編曲によるミュージカル「エリザベート」をこの劇場で鑑賞したことがあるので、いろいろと記憶がつながるような感覚があった。最近の劇団四季もその傾向があるが、僕の経験では歌唱ごとに拍手が起きるのはウィーンの劇場が持つ特徴で、ロンドンのウェストエンドとは異なる特性だ。
神童と呼ばれた頃の自身を化身か偶像のような「アマデ」としてモーツァルトに寄り添わせる演出は、舞台ならではのもの。ステージ上に配置される大道具や小道具も、ポップだったりキッチュだったり。アマデウスがエレキギターを弾く場面も含め、およそこの時代のヨーロッパには似つかわしくない仕掛けも多いが、それこそ舞台芸術の妙味だとも言える。
主演のウード・カイパースは見た目こそアマデウスらしくはないが、歌唱力は圧倒的で、それを際立たせる楽曲との相性も抜群だ。コロレド大司教役のマーク・ザイベルトのハリウッド俳優のように鍛え抜かれた肉体も印象が異なるが、アマデウスと対立する場面の緊迫感は非常に迫力があった。全般的に楽曲は難しく、声量と技量がないと歌いこなせないし、日本人にありがちな甲高い声ではここに籠められた感情を表現し切れないだろう。