事故に遭ったせいで、ビートルズが存在しないバースに移動してしまった主人公ジャックが、ビートルズの名曲を自身の楽曲として発表してスターになってしまうというコメディ。ビートルズの実在性をないことを確認するために、ジャックがネットでググりまくるあたりが面白い。「ダウントン・アビー」のローズという印象的な役柄を演じていたリリー・ジェームズが主人公のパートナーであるエリーとして、様々な表情で華を添えている。
「ビートルズが存在しない世界線」に来てしまったことを即座に理解したジャックの変わり身の早さが、また笑いを誘う。ジャック役にインド系のヒメーシュ・パテルをキャスティングしたのは、このような性格を表現するには最適だという判断だったのかもしれない。ちなみに、パテルは英国生まれで両親はザンビアとケニアの出身だが、両親のルーツはふたりともインド西部のグジャラートらしい。
単に笑って終わりではなく、この世界でのジョン・レノンの登場で隠されたテーマが明るみに出る。スーパースターとしてニューヨークで殺害されたジョンではなく、英国の田舎で隠遁生活を送るジョンがその生活で満足していることを知ったジャックが、自らの嘘を申告してエリーとの幸せにたどりつく展開は感動的だ。
作中では「64歳になっても面倒を見てくれる?」という"When I'm Sixty-four"に掛けた台詞があったり、黄色い潜水艦のおもちゃが象徴的に使われたりとビートルズ色の出し方も秀逸だが、エンディングの「オブラディ・オブラダ」もこの流れからの大団円には相応しかった。ビートルズを愛していなければできなかった作品を見る側としても、ビートルズ愛がぶり返さざるを得なかった。