【ハートロッカー】緊迫感のフィクション

ストーリーが面白いわけでも、派手なアクションシーンに見どころがあるわけでもなく、ただひたすらに戦場の緊迫感をドキュメンタリーのように追い続ける「ハートロッカー」は、まさに異色と呼ぶにふさわしい作品です。監督がキャスリン・ビグローという女性であるという事実は、この緊迫感を淡々と描いているあたりにそれらしさを感じさせてくれます。

イラクに駐留する米軍が、イラク人をまったく信用せずに支配するかのように接し、一方でイラク人による自爆テロや狙撃を恐れています。ことさらに強調することはありませんが、「米軍の暴挙」が誇張なく描かれることで、かえって彼らの置かれた状況の危うさが際立ちますね。自爆テロを実行しようとするイラク人は、信仰の下に確信しているのかと思いきや、恐怖に震えて死を恐れます。その場面に、戦争という単語だけでは語り尽くせない人間の業を感じました。

昨年度のアカデミー賞では、作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞編集賞、音響効果賞、録音賞の6部門でオスカーを獲得しましたが、最もこの作品の特徴を端的に表しているのは「音響効果」と「編集」でしょう。おそらく無声映画で見ても十分に楽しめるくらいの映像であり、また音声だけ取り出しても迫力を感じられます。スクリーンに集中したまま、131分が過ぎ去ってしまうことでしょう。

http://www.hurtlocker.jp/