【映画】リスペクト

アレサ・フランクリンの半生を振り返る内容の作品だが、彼女は教会の娘であり、音楽活動の原点がゴスペルということもあって、バプティスト派の信仰に裏打ちされている。第二次世界大戦中に生まれたアレサにとって、黒人としてミュージシャンになることは容易ではなかったし、父が著名な牧師であることも含め、信仰が彼女を支えていたことが描かれている。

マーティン・ルーサー・キングJr.の時代でもあり、黒人が連帯してその地位を高めてゆく上で宗教が重要なファクターだったことは間違いない。しかし、その色合いが強くなりすぎると、価値観の対立を生んでしまう。イスラム教やユダヤ教はもちろん、仏教やヒンズー教などを含めて数多くの価値観が共存する社会においては、宗教による団結がリスクを高めてしまう。社会というものは、本来生命の安全を確保するための「契約」であるはずで、生命を脅かすような対立からの安全を確保するなら、そもそも対立をなくした方が正解だ。日本で生活しているとピンとこない部分ではあるが、現代社会において、宗教による価値観の違いをダイバーシティインクルージョンとしてしっかり捉えることは、ジェンダーや民族と同じくらい重要だ。

物語としては、暴力で屈従させようとす夫テッドを「悪の権化」のように描いているが、アレサ自身も利益誘導型で周囲をコントロールするところに類似性も感じられる。自我が強くなければアーティストとしてやっていけないのだとは思うが、信仰の強さをその言い訳に使っているようにも感じられた。主人公に感情移入ができないことで、純粋に作品を味わうのが難しくなってしまったのは残念だ。