【映画】西部戦線異状なし

1930年に製作された映画のリメイクなので、実に100年近くを経て映像化された「西部戦線異状なし」。派手なシーンがあるわけでも、人気俳優が揃っているわけでもなく、ただ淡々と戦場の真実を描いている。すぐそこにある死の恐怖に苛まれながら、自分を守る選択をする余裕すら与えられない戦士たちが倒れてゆき、せっかく生き残ってもちょっとした欲望に負けて別の危険を冒してしまう。それも、戦場がもたらす心理状態のなせる技なのだろう。

そして、何よりも今このタイミングで公開したことにこそ、大きな意味がある。ロシアによるウクライナ侵攻が膠着状態に陥り、本作の最後で語られる「わずか数百メートルの陣地のために、数百万人の兵士が命を落とす」ということが繰り返されているのだ。本作でも、将校の意地のためだけに、ドイツが敗戦を受け入れた後に兵士に無駄死にを強いる場面がある。その不条理こそが、今まさにこの世界で起きていることなのではないだろうか。

第一次世界大戦の時代からも100年を経ているが、どんなに科学や技術が進歩しても、人類がやっていることはあまり変わらない。それは逆に、100年という時間の経過が宇宙の歴史に比べればほんの一瞬だということなのかもしれない。過去に優れた文明が存在し、そして絶滅したという話もあるが、それもあながち間違っていないのではないだろうか。バベルの塔を築こうとした代償が「分断」だったという理屈も、僕にはうなずける。