【Jean-Luc Nancy】An All-Too-Human Virus

フランス人哲学者のジャン・リュック・ナンシーが書いたエッセイを英語版で読んだが、フランス語からの英訳、難解なコンセプト、複雑な言い回しという中でどこまでナンシーの思いを理解できたかはわからない。ただ、それでも、このコロナ禍の状況において我々が考えるべきことのヒントは詰まっていたように感じる。

読み始めてすぐ思いついたことがある、それは、コロナ禍とバベルの塔の関連だ。多くの民族が交流することで知と技術が高まり、天にまで届くような塔を築こうと企てた人間に対し、神は「言語を分断する」という罰を与えたと言われている。現代の国際社会においては、多数の民族が相互依存しながら文明を発展させているが、それがコロナウイルスの影響で分断を余儀なくされている。これは、非常に示唆的であると感じるし、これから我々がどう行動すべきかを考えるヒントになるようにも思う。

そして、もうひとつ。これはナンシーが言っていることだが、コロナウイルスパンデミックは人類にとって大きな脅威ではあるものの、脅威は昔からあったということ。例えば自然災害や野獣もそうだし、戦争や強盗、辻切りのような人類による脅威も古くからある。そして、過去に比べればそれらの脅威は極めて小さくなっていると評価できるだろう。そんな中にウイルスが登場しただけであって、人類の脅威が新たに生まれたとは言えない。トータルで考えれば、今現在は生活しやすい環境であるし、その上でどうウイルスに対処すべきかを考えるべきなのだ。

ナンシーが一番伝えたかったことではないだろうが、僕に伝わったメッセージは以上のようなものだ。意図したかどうかに関わらず、それはそれでお互いに意味があることだと思っている。ちなみに日本語版も、「あまりに人間的なウイルス」として勁草書房から出版されている。