【原田マハ】デトロイト美術館の奇跡

デトロイト美術館の奇跡」は財政破綻したデトロイト市の美術館を巡り、市民が美術品の売却を避けようと基金を作って独立法人化するという硬派なストーリーを、原田マハらしく絵画と美術館職員、アート好きな市民の視点で描くハートフルな物語だ。彼女にしては短めの分量だが、その分非常に濃密に仕上がっている。セザンヌが夫人をモデルに描いた作品をテーマにしているが、ちょっと地味で「映え」ない作品を扱っているのもいかにもだ。

展開は見えているし、感動を誘ってくるだろうという予感もありながらも、それでも涙腺が危うくなるくらい感情に訴えてくるものがある。ひとり一人が自分にできることをするというカルチャーはキリスト教に根差している部分もありそうだが、アメリカという国が持つ民主主義のエッセンスを垣間見る気がする。基本的にはフィクションなのだが、綿密な取材に基づいているので嘘臭さは感じない。いかにも骨太な構造の作品だ。

この小説を米国資本で映画化したら面白そうなのだが、難しいだろうか。低予算ではどうしてもわざとらしくなってしまうし、日本に翻案してしまうと魅力は消えてしまうだろう。そうなると、やはりデトロイトを舞台に十分な予算をかけて作ってほしい。きっと、欧米人にも刺さると思うのだ。