トム・ハンクスが脚本を手掛けて自ら主演した作品で、2021年のアカデミー賞音響賞にノミネートされている。第2次世界大戦中に、連合国に物資を届けるため大西洋を横断する護送船団「グレイハウンド」を指揮するクラウス中佐の物語だが、ドキュメンタリーを見ているかのようなリアリティに満ちていた。
「プロジェクト」はもともと、ひとつの航海に当たって「どう資金を集め、そのスポンサーに還元するか」という意味で使われたという話もあり、また「監査役」は航海中に株主に代わって艦長を監視する役割だったとも言われている。それだけ航海というものは、ビジネスとして大きなリスクにある投資であり、慎重に進めなければ大変なことになってしまう位置づけだったのだろう。
この作品を見ていると、海洋というすべてを自分たちで何とかしなければならない過酷な環境において、指揮官が行使しなければならない職務の多さがよくわかる。それはまた、責任の重さということでもある。重要な意思決定をしようとしている最中でも通常のプロセスで求められる承認行為が求められてしまうし、優先順位をしっかりつけて部下に委任しなければ敵艦に撃沈されてしまうかもしれない。
それはすなわち、ビジネスにおける経営者や国家における元首と同じことなのだ。社長も大統領も首相も、平時と戦時を分けて優先順位を常に考えないと、なすべきことが疎かになって組織が挽回不能なダメージを受けてしまう。そして同時に、彼らは組織の構成員や関係者から「できて当たり前」とみなされ、少しのミスでも酷評される。だからこそ政治家を志したり出世を望んだりする人の割合が減少して、適格ではない人物がそのポジションについてしまうことにもなる。
組織のトップは孤独であり、大変な判断を任されているからこそ、それに見合う報酬を受けることができる。しかし、それが単に金銭的報酬だけではモチベーションにはつながらず、消耗するだけなのだ。
自分たちのボスに何を期待するか、そして期待に応えてくれたときに我々はどう振る舞うべきか。そんなことを、この作品が問い掛けているのではないかと僕は受け止めた。