【映画】PERFECT DAYS

ヴィム・ヴェンダースを語る上では、「ロードムービー」と「音楽」がキーワードだ。本作はロードムービーの要素が強く感じられ、ヴィム・ヴェンダース監督の「パリ、テキサス」を日本に翻案して作った映画という印象もあった。「パリ~」はかなり昔に劇場で見たが、細かい要素へのこだわりと完成度に感動したのを覚えている。ハリー・ディーン・スタントンの寡黙な演技を、役所広司がなぞっているような感覚があった。

銭湯やスナックなど日本の庶民的な風俗を概観しながら、軽自動車のバンで走り回る平山。アメリカなら広くて閑散としたハイウェイを進む大型トラックが似合うが、日本を舞台に現実味のあるロードムービーを撮るとしたら、この設定になることには納得がいく。旅に出るわけではないが、都会にいながらにして感じる孤独感と疎外感こそは、まさにロードムービーには欠かせない要素だからだ。

バンに設置されたカセットテープレコーダーも時代を感じさせる代物だが、これによって流される音楽が作品に味わいを添えているのも間違いない。パティ・スミスをはじめとする70年代の音楽がロードムービー感を強めているが、「パリ~」にしても「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」にしても、ヴェンダース作品と音楽は切ってもきれない関係にある。車の中で流れる音と向き合うことで、孤独感や疎外感を浮き彫りにしているようにも感じられる。

特に最近の日本映画やドラマは音楽を軽視し、タイアップなどを多用する傾向があるが、やはり場面に合わせた音楽をつけることにこそ意味があると個人的には思っている。

平山はトイレ清掃員という設定だが、登場するトイレは通勤途中のウォーキングコースにある代々木公園近くのもの。中に入ってロックをかけると遮光が機能して外から見えなくなる仕掛けになっている。これは建築家である坂茂の作品だが、その機能を信用し切れないので、よほどの状況でない限り利用することはない。