【映画】この茫漠たる荒野で

アカデミー賞の作品賞ノミネートは逃したものの、美術賞、撮影賞、音響賞でノミネートされた「この茫漠たる荒野で」は、日本でこそ劇場未公開だが米国での評価は高かったようだ。実際に見てみると、南北戦争後のアメリカの広大な風景を巧みに捉えた映像がとても美しかった。時代的には「大草原の小さな家」と同じなのだが、作り物感がなく、自然な感じに撮影されているところに真実味がある。

主演のトム・ハンクスは、やはり演技がうまい。少女を結果的に連れ回す役どころながら表情に嫌らしさがなく、新聞記事を朗読するという「上から目線」の役柄も嫌味なくこなしているのは彼ならではだろう。ジョハンナ役のヘレナ・ゼンゲルも、ずっと無表情を装っているのだが、終盤に見せる奔放な表情との対比が見事なのだ。ほぼこの二人の演技がすべてだが、それで十分と思えるような物語だった。

原題は"News of the World"なので、まさに新聞朗読の位置づけに重きが置かれている印象だが、邦題がだいぶ異なった表現になっており、視聴して受け取ったメッセージも少し違っている。米国ドラマや映画ではよくある主題だが、血縁よりも「濃い」関係性を持つに至る養子縁組が現実的に感じられるのは、移民国家である米国特有のものだろう。その背後にはキリスト教的な思想があるだろうし、愛国とか自由のように米国の求心力となっているものも存在する。実際にそのような文化に浸って暮らしたことがない僕にとっては、なかなか心から理解することが容易ではない世界だ。