【湊かなえ】夜行観覧車

「告白」の映画化で今が旬の作家、湊かなえ。映画のブームに乗せるように「告白」を発行している出版社から新刊を出すのは、いかにも商業ベースのタイミングですね。「告白」以降も「少女」「贖罪」「Nのために」と立て続けに新刊を上梓しているだけに作品のクオリティ低下が気になったのですが、今回も決して質が落ちていません。複数の登場人物それぞれの視点が語られる手法はワンパターンですが、もはやこれが「湊スタイル」と言ってもよさそうです。

夜行観覧車」というタイトルが、本作のテーマを表現し尽くしているかとそこには疑問が残ります。ただ、マイホームと子どもの教育に生き甲斐を感じるステロタイプな上昇志向階級の心情を、ものの見事に掬い取っているところはさすが。そして、もうひとつ彼女が持っている魅力は、会話に漂うリアリティです。少し前に読んだ宮部みゆきの作品は、高校生を主人公にしていながら会話が高校生らしくない。それに比べれば、キラキラの手作りポシェットをいつも持っている隣の主婦を「ラメポ」と呼ばせられる著者の力は大きな魅力です。

<以下、若干のネタバレ>


あえてネガティブな視点を挙げるとすれば、イケメンアイドルがストーリーの背後で重要な役回りをしていそうな展開なのに、十分なオチが用意されていない点でしょうか。もっと効果的に使ってくれれば、中年世代と中高生を結ぶサブカル的な面にまで入り込めたのに、残念です。もしかすると、次回以降の作品につなげる伏線なのかもしれませんが…

http://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-23694-1.html?c=30198&o=date&