【ユトリロ展】白へのこだわり

ユトリロの描く「白」は、漆喰の壁だったり雪道だったりするけど、要は「白以外の色彩が微妙に混じった白」なんです。白ではない色彩が混じることで、白の純粋さが際立つようにも思います。でも、ほんとうに彼が描きたかったのは、純粋ではない「混じり物の白」なのかもしれません。

ユトリロの作品ばかり約80点も並んでいると、こんなにも飽きるものか。彼は優れた芸術家ではあったけれど、食べるために、生きるために、数をこなしたのも疑いない事実。一杯の酒を買うために描いた、不本意な作品もおそらくこの展覧会に来ていることでしょう。

この展覧会で、僕はめずらしく説明が書かれたボードの前で足を止めました。そこに書かれていたのは、ユトリロが家族の愛を十分に受けられなかった幼少のころ、漆喰に異常なほどの興味を示していたということ。そして、彼がその漆喰の白を再現するために、絵の具に石灰や鳩の糞など、いろいろなものを加える試みをしたということです。そう考えると、ラパン・アジルやモンマルトルの風景はあくまで「おまけ」であって、やはり彼が描きたかったのは「白」だったということなのでしょう。

http://www.nhk-sc.or.jp/event/contents/utrillo.html