【イングランド-ドイツ】因縁のノーゴール

1996年12月、僕はロンドン郊外のウェンブリーにいた。改装を迎える前のスタジアムではサッカーの試合は行われていなかったが、バックステージツアーに参加することができたのだ。時間になると、僕を含む12名がガイドの男性に案内され、ますはイングランドが優勝した1966年大会決勝、イングランド対ドイツ戦のビデオを見せられる。クロスバーを叩いたイングランド・ハーストのシュートは、直角に跳ね返ってゴールライン上に落ちたように見えたが、得点は認められ、イングランドは優勝する。

イングランド人のガイドは、このシーンについて「自分たちはゴールだと信じているが、皆さんはどう思うか」とゲストに問いかけた。熱意あふれる説得に僕を含む10人が「ゴール」と判断し、ドイツ人の2人だけが「ノーゴール」と譲らなかった。それほどまでに、ドイツとイングランドには因縁があるのだ。

今大会の決勝トーナメント、ラウンドオブ16の戦いで、今度はドイツ有利な誤審がウルグアイ人の主審によて下された。ラリオンダ主審は、それまでの時間にもイングランドのパスコースに立ってしまい、明らかにイングランドの攻めを遅れさせてしまっていた。

僕はビデオジャッジの導入には反対だ。スタジアムによって判定基準に差ができてしまうし、貧困国は大きなハンデを負ってしまう。アマとプロでビデオ導入状況が異なれば、サッカーの進歩にも不都合だ。

いつのことか忘れたが、国立競技場での横浜フリューゲルス名古屋グランパスエイトの試合で、後半ロスタイムにフリューゲルスのシュートが今回のケースと同様の跳ね返りをした結果、ノーゴールとなったことがある。普通は場内のモニターに疑惑のシーンは再生されないのだが、このときは流れてしまった。フリューゲルスサポーターとしてはビデオを見たいところだが、僕は違和感を覚えた。それをやってしまったら、サッカーではなくなってしまうから。ビデオジャッジよりも、優先すべきは審判技術の向上なのだ。