【映画】フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

ウェス・アンダーソン監督作品らしく、豪華な俳優陣が学芸会のように演劇要素たっぷりのプロットを楽しみながら演技している。4つのエピソードを雑誌の記事に見立てたオムニバス形式で扱っていることが、映画にしては過剰なまでの演劇空間で展開されるために、まるでコントを見ているような気分になってしまった。コントという言葉を使った意図は、安っぽく見えたということ。メッセージはしっかり籠められ、俳優陣の演技にも見応えはあるのだが、それらが上滑りしてしまってもったいないという感覚だ。

殺人で収監されている囚人のアートを同じく収監されている画商が見出すエピソードでは、アートの価値がどこにあるかを問い掛ける。ゴッホの「郵便配達人ジョセフ・ルーアン」を思わせるような人物モーゼス・ローゼンターラーは、その名前からはナイーブアートの画家グランマ・モーゼスを想起させる。名のある画家の作品ではなくても、そこにある美が共感を呼べばその価値が高まる。共感を呼ぶ物語を添えるジャーナリズムがその一翼を担っているということで、このブログもそんな役割に手を貸せたらよいと思っている。

さほど登場シーンが多くない割には、エリザベス・モスの存在感は圧倒的だった。印象に残ったという意味では、フランシス・マクドーマンドティモシー・シャラメが恋人関係にあるという設定だろう。ウェス・アンダーソンらしい奇想天外な発想だが、恐らく他の監督は思いつかないし、思いついたとしてもその通りにはキャスティングできないはず。そのあたりが、ウェス・アンダーソンの強みでもあることは間違いない。

【アジア最終予選】中国—日本

ワールドカップアジア最終予選は2回目の対戦に入り、SAMURAI BLUEは廈門(アモイ)で中国と対戦した。アモイは沿岸部の大都市ということもあって、スタンドの観客も国粋主義ではなく、純粋にサッカー観戦を楽しんでいるような雰囲気があった。

序盤から無理をせず、じっくり相手を剥がしながらのビルドアップに徹する日本に対し、中国は厳しい当たりで対応する。あまりにも酷いファウルという印象はあまりなかったが、ガンガン当てて来ていたのは確か。ただ、これは中国目線で見れば、主審が笛を吹きすぎるという捉え方もできたように思う。

代表戦でのプレーは監督の指示に加え、普段のリーグ戦がどんな環境かにもよる。審判のジャッジの傾向は、その国のサッカー協会やリーグの意向も絡むし、観客が何を楽しみ何を受け容れるかにも左右される部分がある。「フィジカルコンタクト強化の底上げのため、軽いチャージは取らない」という方針を出すこともあるだろう。下したジャッジに観客のブーイングが起きれば、その場で判断は変わらないものの、審判の脳裏に蓄積されてゆくことは間違いない。

中国代表のこのようなプレーの傾向は、そのような「風土」というか「サッカー文化」に根差しているのではないだろうか。だからこそ、あのくらいのチャージは当たり前だし、行かなければチームメイトや監督、サポーターの風当たりが強まってしまうのだ。

そんな中、日本のビルドアップは完璧だった。ただ早くパスを回してリスクを避けるだけの某J2チームのようなことはせず、しっかり持って隙を探す。その間に選手は、意図を持ってポジションを修正する。一手先、二手先を見ているし、特に遠藤のパスは、自分が出すパスを受ける選手に次にどのようなプレーを期待しているがが伝わるような方向と強さなのだ。

1失点してしまったのは、まあやむを得ないと言える。中国相手に空中戦で3点取ったことも、昔の感覚ではあり得ないことだ。2位以下が大混戦のグループCでの勝ち抜けは間違いないだろう。

気になったのは、久しぶりに招集された古橋享梧が、ピッチに入るときに不安そうな表情に見えたこと。プレーも含めてセルティックで見せる不敵な笑みを見せるよりも、ネガティブな雰囲気を漂わせていたのは何故だったのだろうか。

【ドラマ】リンカーン弁護士 シーズン3

それぞれに難しいキャラクターながら、シーズン1に比べて俳優陣がその役柄にハマるようになってきた印象で、主人公ミッキー・ハラーの偉そうな雰囲気にコミカルでシニカルな要素が加わってひときわ面白くなってきた。ローナに見せ場を振り過ぎているせいで、彼女の演技がちょっと過剰になっているきらいはあるが、コメディ要素の範囲で収まっているので、まあOKだろう。

法廷ドラマfrはあるが、正義感や判例知識のような正統派の訴訟戦略に留まらず、書類をでっち上げたり証人を出廷させないような細工をしたりと裏側の戦略も満載で、いかにもアメリカ社会という感じ。実際、アメリカに限らず弁護士という職業は訴訟に勝ってナンボなので、何が正しいかより、クライアントに利益をもたらすように導くことがミッションだ。

僕は子どもの頃に、親から「弁護士になれ」と言われていた時期もあったが、今さらながら振り返ってみて、そんな曲がったことに尽力することになりかねない職業は無理だったと確信する。ストライクゾーンは広いつもりだが、そこを外れるコースをストライクと言い張るには正義感が強すぎるからだ。

シーズン2で存在感を示したヤヤ・ダコスタは、このシーズンでも引き続き好演を見せる。「シカゴ・メッド」のエイプリル役では若さを前面に出しているが、こちらでは余裕をかますくらい大人の女を演じていて、表情も台詞回しも堂に入ったものだ。「シカゴ~」では十分に引き出されていなかった彼女の俳優としての素晴らしさが、うまくフィーチャーされていて驚くばかり。もっとメインのキャラクターで使ってみて欲しいと思っている。

【ラグビー】日本―ウルグアイ

パシフィックネーションズカップでは準優勝したものの、強豪相手のテストマッチではまったく勝てず、フランス戦も大敗を喫した日本代表、この日のウルグアイ戦は結果を先に見て、勝ったことを確認した上で安心して見逃し配信を見始めたのだが、その内容の悪さに正直がっかりした。

先制トライを許した上に、SO松永のコンバージョンがまったく決まらない。PGは1本決めたが、コンバージョンは4本をすべて外しており、ポストまで届かなかったものも含めあまりにも外れているものが多かった。後半の途中からはキッカーをSH齋藤に交代し、斎藤も1本外しはしたがポスト直撃なので納得はできるところ。ショットクロックの重圧もあったとは思うが、とてもテストマッチとは思えない内容だった。

しかし、それ以上に気になったのは、ひとり少ない状況でウルグアイにモールを押し込まれた場面でまったく止めることができず、ドライビングモールのままグラウンディングまでされてしまったこと。TMOを経てたオブストラクション判定でノートライとなったが、選手たちにとっても痛恨といえるプレーだったはずだ。

勝つには勝ったが、課題の残る内容だった。明るい材料としては、戻ってきた姫野がトライを決めたことと濱野の活躍だろうか。今の状態でイングランドに善戦できる予感はまったくないが、光明だけでも見せて欲しいものだ。

それにしても、最近のラグビーは観戦の興味が薄れている。濱野が華麗にトライを決めたかと思いきや、TMOでスローフォワードを取られてノートライ。微妙なファウルで齋藤がイエローをもらってシンビンになり、ディアンズはレッドカードで退場。ラグビーでルールを厳密に取ると、本当につまらなくたる。見ていてもわからない程度のもので笛が吹かれても、納得感もないし、特にライブで見る意味が薄れてしまう。これは興行として考えても、妥当な施策だと思えないのだが…

【ビリージーンキングカップ・ファイナルズ】日本―イタリア

ルーマニアを下して準々決勝に進出した日本チームがイタリアと対戦。圧倒的にイタリア優位という前評判ではあったが、大舞台を経験してきている柴原やダブルスの青山/穂積には期待できるし、WTAファイナルズにピークを合わせていたであろうパオリーニにも隙があるように思えていた。

シングルス第1試合は柴原瑛菜とコッチャレットが対戦。ファーストセットは無難に取ったコッチャレットだったが、セカンドセットはいきなり柴原のブレークで始まった。すぐに取り返されたものの、4-4で迎えた第9ゲームを柴原がブレークするという理想的な展開でセットオールに追いつく。

柴原はワイドを狙ったショットやドロップショットで勝負に出たところでのミスが多く、なかなか流れをつかめない。コッチャレットのリターンが深いので、前に出てプレッシャーを掛けようとしても、逆に自分のショットが詰まってしまう悪循環に陥る場面もあった。

しかし、セカンドセット途中からセンターセオリーに切り替えたように見受けられ、無理をせずにコッチャレットのミスを誘う戦術に移行したのが功を奏した。ラリーではたいてい柴原が先にミスを犯していたが、これは待ち切れなくて動いてのアンフォーストエラー。「待つ」ことをよしとする戦術ならば、攻められない自分に焦れる必要もない。このあたりは、杉山愛キャプテンが授けたものかもしれない。

ファイナルセットも柴原が先にブレークするもすぐに追いつかれ、さらにブレークで畳みかけた柴原がサービング・フォー・ザ・マッチを取り切って勝利を収めた。

先行した日本だったが、ここからは実力差が出てしまう。パオリーニに挑んだ内島萌夏は先にブレークしながらも、プレーが安定せずにすぐにひっくり返される。有明コロシアムでのウクライナ戦で感じたことだが、明確なストロングポイントのない内島にとって勝負所で頼るパターンがないことが、勝負弱さにつながっているのではないか。

頼みのダブルスも、エラーニの巧さとパオリーニがここぞというタイミングで繰り出す強打に翻弄される。穂積と青山も食らいついてはいたものの、細かいミスも多く流れをつかめなかった。だた、相手が明らかに流れをつかんでいたセカンドセット終盤にブレークをひとつ返したことは、穂積と青山にとっては意味のある結果だったはずだ。

強豪イタリアに勝つチャンスが十分にあったはずだが、このフォーマットで大坂なおみを欠きながらのベスト8は賞賛に値する。2日間も楽しませてもらって、本当にありがとう!

【アジア最終予選】インドネシア―日本

ワールドカップアジア最終予選帰化選手を揃えて反攻を企てるインドネシアのホームスタジアムはサポーターが圧倒的な雰囲気を作っていた。そして、この試合の一番のカギは、試合開始当初からかなり強い雨が降っていたこと。ピッチも明らかにぬかるんでいて、パススピードも出なければダッシュするにも苦労するような環境だった。観客とピッチも含め、完全アウェイの環境だったというわけだ。

序盤の日本代表はポゼッションこそ十分なものの、無理をせずにじっくりビルドアップする戦術のために、ゴールの予感は漂ってこない。特に左ウィングバックのポジションに配置された三苫は怪我を避ける意識が明白で、ボールを受けても仕掛けずに戻してしまうシーンが続いた。インドネシアのカウンターが結構鋭かったので、下手したらカウンター一閃で失点して取り返せないまま終わってしまう懸念すらある状況だった。

その観点からは、9分に迎えたピンチの場面でGK鈴木彩艶が見せたファインセーブの意味は、非常に大きかったと言えるだろう。その後もカウンターを何度も受けたが、相手のフィニッシュの精度にも助けられたとはいえ、ゴール前の効率よいディフェンスでスタジアムの盛り上がりを最高潮にはさせなかった。

そんな中で生まれた先制ゴールは、守田から鎌田へというこの日の攻撃のファーストチョイスから。鎌田の折り返しが記録上はオウンゴールになったようだが、小川も足を振っていたので、相手DFがボールに触れなくてもゴールになっていただろう。

前半のうちに2点目が取れたことは大きかったが、あそこに走り込んで来てあのコースに打った南野のセンスに脱帽だ。後半開始早々には、相手GKのミスから守田がゴール。これで勝負の大勢は決まる中、途中出場の菅原がニアサイドを豪快に抜く4点目。オランダでプレーしていた彼にとっては、インドネシアがオランダの旧植民地でインドネシア代表への帰化選手も多いので、特別な感情はあったのではないか。

結果的には久保も中村敬斗も古橋も使わずに終わったので、中国戦の選手起用にも余裕を持てそう。頭一つ抜け出している日本が、ワールドカップ出場に大きく近づいた。

【ビリージーンキングカップ・ファイナルズ】日本―ルーマニア

スペインのマラガで開幕したビリージーンキングカップのファイナルズ。マラガは過去に滞在したことがある都市なので、選手たちがInstagramに上げる画像からも懐かしさを感じていた。ルーマニアのキャプテンはホリア・テカウで、日本の杉山愛キャプテンともどもダブルスのスペシャリストだ。

まずは、日比野菜緒がアナ・ボグダンと当たるシングルス。お互いにサービスエースを奪うイーブンの滑り出しながら、日比野がサーフェスをつかめていない様子は明らか。映像を見ている限り通常よりも弾む感じになっているようで、バウンドを合わせるのに苦労していた。

徐々にボグダンがリードを広げて行ったが、その差はサービス。このポイントは絶対としたいという場面で、狙い通りにコントロールされたサーブが決まっていた。一方の日比野はボレーがことごとく合わなかったので、おそらくボグダンのショットは強い回転が掛かっていたのではないだろうか。流れを変えようと前に出ても、ボレーでミスしてはかえって傷口を広げるばかりで、結局6-2 6-4のストレートでボグダンが勝った。

続いては、大坂なおみの欠場で急遽シングルス要員として招集された柴原瑛菜がクリスティアンと対戦。柴原は日比野と打って変わって、サーフェスをしっかり掴んでいる模様。攻めるテニスとも言えるし、せっかちなテニスとも言える形で自分から先にコースを変え、厳しいところを狙いなから、それがうまくハマっていた。

試合中も笑顔が見られ、杉山キャプテンとのコミュニケーションも円滑に見えた。セットアップして迎えたセカンドセットでは先にブレークを許したものの、すぐにブレークバック。タイブレークでは終始優位に立つ展開で勝ち切った。

ダブルス勝負になったが、青山修子/穂積絵莉組は最近のツアーでも組んでいるペアで、ふたりとも実績も十分。その経験も存分に見せつけながらの展開となる。相手はニクレスクとルーズで、ニクレスクは加藤未唯とも組んでいるので馴染みのある選手で油断はできない。しかし、やはり青山の経験が引き出すプレーは、随所で光った。

セカンドセットではマッチポイントを凌がれてイーブンに戻されたものの、5-5からの第11ゲームを0-30から逆転でブレークすると、そのまま次の青山のサービスゲームをラブゲームで取って日本がルーマニアに勝利した。

これで次はイタリアと対戦するが、イタリアに勝つのは簡単ではなさそうだ。日比野に代えて内島を使う可能性も高そうに思うが、誰が出るにしても悔いのない試合を見せてもらいたいところだ。