【ドラマ】ビリオンズ シーズン1

9.11をきっかけにヘッジファンドでのし上がった男と、それを追う検事の人間関係が複雑に絡み合う重厚なストーリー。ファンドが米国経済を回す原動力になっていることは間違いないが、そこには当然に悪事や利権が絡む。すべてを金で解決しようとする犯罪者を追う検察は、勝てる案件を選んで起訴に持ち込む。脚色して描いている部分はあるだろうが、特に米国におけるビジネスの理屈が生々しいことは、米国企業に10年以上在籍していた僕にとっても身に染みて理解できるところだ。

そして投資の世界に属する金持ちが、どういう発想をして、どういう行動に及ぶのか。いわば、金の亡者たちの生態が如実に描かれる。所有する資産の額やそのブランド価値が絶対的なものであって、それ以外の価値観が存在することすら意識できない。フラットに淡々と描写しているが、それがかえってシニカルさを増している。

このドラマは何よりキャストの豪華さが圧倒的で、それだけでお腹いっぱいになってしまうくらい。主人公でファンドのCEOのボビー・アクセルロッドを演じるダミアン・ルイスは、「ホームランド」のブロディ役で見せた孤高さはそのままに、ソシオパスすれすれの危ない言動を恐ろしいくらいに表現している。この役を演じるには適任すぎて、彼を上回る人材は見つけられないだろう。

検事役は、ゴールデングローブ賞も受賞している名優ポール・ジアマッティ。ボビーの右腕のCOOを演じるのは、「スーツ」でダニエル・ハードマンという冴えない嫌な奴の役だったデヴィッド・コスタビル。「ブラックリスト」では下院議員役として存在感を示していたトビーレナード・ムーアも、重要なポジションにうまくハマっている。また、同じく「ブラックリスト」でハロルド・クーパーを演じたハリー・レニックスや「ER」のマーク・グリーン医師役のアンソニー・エドワーズらをチョイ役で起用しているあたりも、非常に贅沢だ。

シーズンファイナルとなる12話の終盤で、アクセルロッドとローズ検事が対峙するシーンは見応え十分だ。ここまでのストーリーを振り返りながら、次シーズンに向けて展開を匂わせつつ、お互いの価値観や生き様を否定する形で自己主張を繰り広げる。法によって公平や正義を実現しようとする検事と金の力で経済や社会を回すことを自らのミッションと捉える富豪。ロジックに無理があることを感じながらも、それを包み隠す「大義」によって自分を正当化する。この場面にこそ、この作品が描こうとしているテーマが凝縮していると言える。