【不都合な真実】語られなかった「政治」

ノーベル平和賞を受賞したアル・ゴアアメリカ副大統領のプレゼンテーションともいえるこの作品を、光回線を使ったブロードバンド放送で見ました。実はこれを見る前に僕は、2つの疑問を感じていたのです。ひとつは「気温変動は、氷河期をもたらす長期的なものではないのか?」ということ。そしてもうひとつは、「先進国だけの問題ではなく、中国や発展途上国こそ問題では?」という点でした。

アル・ゴアはこの作品の中で、その2つの疑問にクリアに答えてくれています。その意味では、多少胡散臭い眼で見ていたゴア氏を、見直すきっかけになったと思います。例えば「長期的な変動では?」に対しては、65万年の気温変遷データを示して、ここ数十年の異常な数値の上がり方を説明しています。

ただ、「では、どう行動すべきか?」の部分については、あくまでアメリカ国民に向けたメッセージで終わっています。地球温暖化の問題は、実は発展途上国の経済発展や人口増加にどう対処するかという南北格差の問題であって、まさに政治の領域です。「モルディブやツバルが水没してしまう」のは事実かもしれませんが、一方で極地付近では人間の活動領域が増えるはず。僕たちが一方的に太平洋の島民の利害を、シベリアの住民の利害に優先させてはならないはずです。それでは「頭のよいクジラを獲るな、食べるな」というグループと同じになってしまいます。

この作品はあくまで啓蒙を目的といていると思われるので、途上国の問題に踏み込まなくてもやむを得ないですが、中国の存在と急成長を考慮した場合に、単にアメリカや先進国が行動を起こしただけではどうにもならないことは認識する必要があるはずです。植林を進めることには賛成ですが、焼畑農耕や林業を「環境のため」と否定して、彼らの生活手段を奪う資格は先進国にはないのですから。アル・ゴアが果たせなかった政治家としての役割を誰が務められるのか。それは僕たちに残された大きな課題です。