【ミュンヘン】スピルバーグのメッセージ

ミュンヘンオリンピックの選手村で起こった、アラブゲリラによるイスラエル選手殺害事件。そのエピソードを思い描いて見たこの作品は、まったく予想とは違う展開でした。ストーリーの中には政治や宗教は織り込まれているけれど、その分量は小さじ一杯程度。それよりも人間性と家族の物語と言ったほうがよさそうです。

歴史の中で、多くの宗教戦争が起き、思想や民族の違いによって争いが起きたと僕たちは学びました。しかし、その戦争や殺戮は、現場レベルでは宗教だの思想だのという小難しい次元ではなく、愛する家族を守るため、養うためのひとつの「仕事」として進められていたのではないか。この作品を見ての僕の感想は、その一言です。

時には自分が殺害した「敵」や、ターゲットの家族に敬意を表しつつも、殺すものは殺す。それは別に崇高な考えによるものではなく、単にそれが仕事だから。そうである以上、戦争や殺戮が簡単になくなりはしない。そんな気がします。

最後に主人公の母親が「やっと私たちは帰る場所を手に入れた」と語るけれど、彼らの約束の地はカナンではなく「家族のいる家」だったのではないか。スピルバーグのメッセージがこういうものだったかどうかはわかりませんが、僕はそう受け止めました。久々に、深く考えさせられる映画を見たような気がします。

http://munich.jp/