【シャル・ウィ・ダンス】日米比較の視点で

周防正行監督のオリジナル版を観たのはもうずいぶん前で記憶が定かでないため、ポイントをふたつに絞ってみたいと思います。まずは、舞台となるダンス教室のある街について。日本版では西武線沿線、おそらく西武新宿線ではないかと思う設定になっています。西武線は他の私鉄に比べて高架化が進んでいないこともあって、線路沿いの風景が近い。「電車の扉にもたれて見上げたところにダンス教室」という状況にはピッタリだったんだろうなと思います。

さて、ハリウッド版ではシカゴの物語になっています。テレビドラマ「ER」でもおなじみなように、シカゴといえば高架鉄道が街の中心を循環しているので、アメリカで「電車の扉にもたれて見上げたところにダンス教室」とするには最適だったんでしょうね。それに西海岸に社交ダンスはあまりに似合わないし、ニューヨークやボストンでは似合い過ぎて「いまさら社交ダンス?」っていう雰囲気にならない…

次に主人公の職業について考えます。日本版での役所広司は「中小企業の経理課長」という設定で、これは明らかに「平凡で、うだつのあがらないサラリーマン」を意図していますよね。それに対してハリウッド版は「遺言状専門の弁護士」。日本人の感覚では弁護士はエリートだけど、アメリカの弁護士の方が守備範囲が広いので、たぶん「司法書士」と考えた方が近いんじゃないでしょうか。街の司法書士なら「うだつのあがらない」感があるでしょ?