【DVD】「Ray」のレイ・チャールズ

ほとんど予備知識を持たずにこの作品を見たのですが、映画「Ray」でレイ・チャールズはヘロイン中毒で女癖が悪く、自己中心的に成り上がったミュージシャンという描き方をされています。申し訳程度に、ジョージア州オーガスタの公演で黒人を「隔離席」からしか見せない興行主との契約をキャンセルした事実を、ヒロイックに伝えてくれるだけです。

おそらく前提条件として、「この映画を見る人はレイ・チャールズの素晴らしさを知っている」ということがあるのではないでしょうか。152分の大作に仕上がっているこの作品にあって、まず省けるところは「アメリカ人の常識」としてのレイのポジショニングの紹介だったのです。

しかし、レイの成り上がりストーリーについて掘り下げて考えて見ると、「契約社会」アメリカの本質が見えてきます。よく「インドでは定価がなく、交渉制」と言われますが、要は時と場合によって自分と相手の力関係を見極めて交渉するという弱肉強食の中のもがき合いが、契約に置き換わっているのではないでしょうか。中国やトルコのような発展途上で国民の数が多い社会では競争も激しいはずで、当時のアメリカも、そしておそらく日本も同じだったのです。「取れるところから取る」は近代以前の社会では常識で、日本にだってちょっと前までそういう時代だった。この作品を見て、そんなことを思いました。

レイを演じてアカデミー主演男優賞を受賞したジェイミー・フォックスの演技もよいけれど、母親役のシャロン・ウォレンのさりげない好演が光りました。