【原田マハ】たゆたえども沈まず

「暗幕のゲルニカ」に続いて、原田マハの作品「たゆたえども沈まず」を読了しました。これはフィンセント・ファン・ゴッホのパリ以降の生涯が、弟のテオや日本人画商の林忠正、そして架空の人物である重吉の目を通して綴られます。ゴッホといえば、耳を切り落とした上に拳銃自殺で生涯を閉じるわけですが、この小説は片耳すべてを切り落としたわけではないと書かれているものの、実際は諸説あるようです。

浮世絵、そしてそれを産んだ日本に興味を持っていたゴッホに、「自分にとっての日本になり得る」としてアルル行きを勧めたのは林忠正であるとされています。さらにはゴーギャンをアルルに送り込むことになりますが、それがゴッホの人生にとってどんな意味を持ったのか、その解釈はいろいろできるでしょう。しかし、その結果としてあれだけの素晴らしい作品が残されたことは事実。そのあたりの周囲の受け止め方は、ぜひ本作の仕立てを味わっていただきたいところです。

「暗幕~」もそうでしたが、前半が非常に綿密なストーリー展開であるにも関わらず、後半は尻すぼみ感が否めません。僕の印象としては、高橋克彦と同じ傾向を感じるのですが、終盤まで書くことへの根気が続かないのではないかと思ってしまいます。高橋克彦のような「広げた風呂敷を回収せずに終わる」ことはないのですが、重要なはずのエピソードの表現に物足りなさを感じました。