この作品は、本当に音楽そのものやミュージシャンの描写が見事だと思う。今回の第5巻もまた、ジャズプレイヤーのアイコンタクトやインプロビゼーションがふんだんに、そして繊細に描かれていた。もうそれだけで、お腹がいっぱいになるくらいなのだ。ついにドイツで多国籍のバンドを組み、ツアーを始める"D"こと宮本大。曲者揃いのバンドメンバーの個性も、ポーランド、フランス、ドイツといったバックグラウンドをうまく反映させながら描いている。
特に、ポーランド出身のピアニストであるブルーノ・カミンスキーの描き方は秀逸で、隣国ドイツにおけるポーランドの国民性や音楽性のとらえ方がいかにもという形で表現されていて興味深い。ドイツを舞台にしたのも、このあたりを描きたかったからなのだろうか。
若干違和感があるのは、日本にいるころはもっと頼りなさげだった宮本大が、つたない英語ながら自信を持って自分を表現している部分。成長を感じるという言い方もできるのだが、それならもう少しその過程を描いて欲しかったという思いもある。成長の物語というよりも、ミュージシャンとしての大成がテーマなのだろうか。