【国際情勢】世界史の逆襲

最近書店で地政学の本をよく見かけるので、気になって手に取ると内容が乏しいことが多くて残念です。そんな中、たまたま見つけた「世界史の逆襲」は世界が置かれている状況を的確に解説してくれていると感じました。これは外務省の官僚出身で、駐シリア臨時代理大使としてヨルダンに赴任している松本太の最新作です。

「ウェストファリア・華夷秩序・ダーイシュ」という副題がついているように、三十年戦争終結させたウェストファリア条約下の体制が、国家を主体とする国際関係の基盤となったことを起点として展開します。そして、現在の世界情勢は、ロシアと中国が国境線の変更を模索する形でこの体制を揺るがし、さらにはISISという「国家ですらないもの」が国際関係の主体になりつつあることがもたらす混沌を示唆しているのです。

社会契約説にも通じますが、「国家というものは人々が必要に迫られて作り出したものだが、結果として出来上がった枠組みを前提としない人に対しての抑止力にはなり得ない」ということですね。中国もISISも、その意味では同列にある脅威だと著者は説いています。著者の結論は「だから抑止力としての軍事力は必要だ」ということなのですが、主張が異なる人にとっても世界情勢を見つめ直す良い契機になる書籍だと思います。学生時代に読んだ吉本隆明の「共同幻想論」を、もう一度読んでみたくなりました。